リベンジ消費は誰のものに? アイデアマンが需要が掴む

ワクチン接種のペースが順調で、夏が終われば希望する人へのワクチン接種はだいぶ行き届きそうだ。こうなると経済の正常化も近い。これまで行けなかった旅行やイベント、テーマパークに繰り出す人も多くなるだろう。こうした「リベンジ消費」は必ず起こるが、リモートワークの普及など生活様式に変化が起こったので、従来通りのやり方だと思い通りにいかないかも。
ニッポンの数字 2021.06.28
誰でも

東京都の新型コロナの感染者数がまた上昇に転じそうな気配を見せている中、ワクチンの接種は順調に進んでいます。重症化しやすい高齢者を優先してワクチンを接種しているので、新規感染者が増えても重症化する人の数はそれほど増えないはず。夏が終わる頃には、若い人も含めて多くの人がワクチンを接種しているでしょう。

オリンピックの開催で訪日外国人の数が増え、それが新型コロナの再拡大につながる懸念はあるものの、医療崩壊が起こる確率は減った考えてよいのではないでしょうか。そうなると仕事終わりに飲みに行って、週末はイベントで盛り上がるという日常が戻るのも時間の問題です。

そこで気になるのは個人消費の動向です。どの分野で復活が見られるのか、消費はコロナ前に戻るのか気になるところです。今回のニュースレターでは個人消費の統計の代表格である家計調査を取り上げて、ワクチン接種が行き渡った後の個人消費の動向を大胆に予想してみようと思います。

2020年の個人消費は歴史的な落ち込み

家計調査は個人消費の動向を見る代表的な指標で、その中で「二人以上世帯の勤労者世帯」(二人以上の家族で世帯主が働いている世帯のこと)の指標がよく参照されます。まず、個人消費の動向を過去にさかのぼって見てみましょう。

家計調査、二人以上勤労者世帯の消費支出の推移

家計調査、二人以上勤労者世帯の消費支出の推移

消費支出(個人消費)は2010年代まで右肩下がりで推移して、アベノミクス以降に下げ止まり感が出てきました。ただ相次ぐ消費増税もあって個人消費は再度減退し、2020年は新型コロナの影響を受けて、個人消費は過去20年で最小となりました。

グラフを見れば分かる通り、直近の落ち込みは過去に例がないほどです。2020年の消費支出は前年比▲5.3%でリーマンショックと東日本大震災のときを上回る落ち込み幅でした。

お金の使い所がなく、家具と家電に消費が集中

新型コロナの影響で個人消費は落ち込みましたが、その内訳を見ると消費が伸びた品目もあります。下記は費目を10分野に分けた「10大費目」の前年比の表です。

家計調査、10大費目の前年比

家計調査、10大費目の前年比

一番上の「消費支出」は、さきほど折れ線グラフでも見ていただいた全体の支出です。その下が10大費目になります。二桁減の費目が目立つ中、「家具・家事用品」が+8.5%と大きく伸びました。「家具・家事用品」は2019年も同年10月の消費増税に伴う駆け込み需要があって+5.6%を記録しましたが、そこからさらに伸びたのですからこの分野の消費の勢いは凄まじいものがありました。

「家具・家事用品」のうちどのようなモノに需要が集まったのか具体的に見てみましょう。

家計調査、家具・家事用品の品目別の前年比

家計調査、家具・家事用品の品目別の前年比

思いつくる家具・家電のほとんどが前年の消費を大きく上回っています。昨年は国からの10万円給付があり、そのお金が家具・家電に集中したと言えそうです。実際にニトリやコジマの月次売上の推移を見ると10万円給付以降は大盛りあがりでした。

しかし、家具・家電は頻繁に買い換えることがなく、これだけ需要が膨れ上がると反動もありそうです。家具・家電に需要が集中した理由は、そもそもお金の使い所がそれくらいしかなかったというのもあります。コロナが収束し、旅行やイベントにも気兼ねなく行けるようになったら、こちらにお金を使う人も多くなるでしょう。コロナ後の消費は、コロナ禍で落ち込んだ分野にこそ注目すべきです。

都心部の賑わいは本当に復活する? ポテンシャルがあるのは郊外

お酒を外で飲む機会がなくなり、居酒屋とはじめとする外食産業はコロナ禍で売上を大きく減らしています。家計調査を見ても2020年の外食への支出は激減して、前年比▲26.7%ととなっています。

家計調査、外食の消費動向

家計調査、外食の消費動向

旅行への消費はさらに落ち込んでおり、2020年は前年比▲64.5%でした。

家計調査、旅行の消費額の推移

家計調査、旅行の消費額の推移

他にも、映画・演劇(▲62.7%)、スポーツ観覧(▲61.6%)、スポーツクラブ(▲25.6%)、遊園地(▲66.4%)など、消費が激減した分野を上げると枚挙に暇がありません。

家計調査、数字は前年比で右から2020〜2017年。一番左が2020年の対前年比。

家計調査、数字は前年比で右から2020〜2017年。一番左が2020年の対前年比。

まだ中止すべきという意見も多いオリンピックですが、いざ開催されれば日本人選手の活躍にみんな熱狂するはず。「おれもやってみるか」と思って、スポーツジムに再び入会する人も出てくるはずです。

ワクチンがいきとどき、コロナ感染の心配がなくなれば、イベントの入場制限は緩和され、旅行に繰り出す人も出てくるでしょう。実際に昨秋、コロナの感染拡大が落ち着きGoToキャンペーンも話題になった中、H.I.Sの国内旅行取扱高はコロナ前の水準を上回りました。

オリンピックの後に衆議院選挙がありますし、予算編成ができる与党としては補正予算を武器に(エサに?)して選挙を戦いたいはず。今のペースでワクチン接種が続けば秋にはワクチンがだいぶ行き届いていそうですから、感染拡大を気にせず経済対策を打てるでしょう。そうなると、コロナ禍で落ち込んでいた分野の消費にリバウンドが発生する可能性が高いです。

コロナが収束したら、旅行やコンサートなどのイベント関連の消費が復活するのは間違いないでしょう。ただ、仕事帰りのサラリーマンをターゲットにした都心部の居酒屋がコロナ前の需要を取り戻すかは若干疑問です。理由はコロナ収束後もリモートワークがある程度定着しそうなためです。在宅勤務の日にわざわざ飲み会のために会社に出向く人はいないでしょう。

実際、リモートワークが普及した影響で2020年の通勤定期の購入は前年比▲17%ととなっています。

家計調査、「交通」の消費の前年比

家計調査、「交通」の消費の前年比

足元を見ても、2021年4月の通勤定期購入額が2019年4月比で▲22.3%となっており、コロナ前の水準には至っておりません。もちろん、すべてのサラリーマンがリモートワークを続けるわけではないので都心部の居酒屋も賑わいを取り戻すはずです。しかし、以前よりも人流が減るはずなので、コロナ前の売上を期待できるかどうかは疑問です。都心部の居酒屋は閉店したところも多く、競争相手がいなくなったおかげでお客さんを確保できるようになるというケースも考えられますが、こればかりはやってみないとわからないのが実情でしょう。お店側からしてみると、テナント料が安くなれば都心部でも挑戦してみるかといった感じでしょうか。

逆に都心から少し離れた郊外の店舗のほうがチャンスがあるかもしれません。郊外での需要がこれから盛り上がるという根拠を示すデータは見当たらないのですが、リモートワークが増えた今、郊外の昼間の人口も増えています。夜になってから彼らを家から出して居酒屋に足を運ばせるかは、地元の商売人の腕の見せどころでしょう。彼らのあっと驚くようなアイデアに期待したいですし、新型コロナの感染拡大を努力で不正だ国民への報いとして、政府にも消費を後押しする経済政策を打ち出してほしいところです。

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