リーマンショックと比べたら全く悪くないコロナ渦の経済対策

政府のコロナ対策に関するニュースを見ると批判ばかりが目に付きますが、経済指標は思ったよりも悪くない。雇用環境は悪化しましたが、思ったよりも悪化せず、足元では2.9%と決して悪い数字ではありません。景況感も足元では改善が続いています。現状の景気がいいとは言えませんが、リーマンショックの頃と比べたら雲泥の差です。
ニッポンの数字 2021.04.12
誰でも
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長らくおやすみしていたニュースレターですが4月から再開することになりました。実は昨年末に前職を退職しまして、当初は3ヶ月くらいじっくり転職活動してその間自分の運営サイトを改善しようと思っていたのですが、1月に内定をもらって2月から現職の会社で働くようになりました。転職先では覚えなければならないことが多く、ついこないだまで胃が痛い思いをしていたのですが、ようやく慣れてきましてサイトの更新もできるようになってきました。ニュースレターをメールでご覧になっている人はこの前文が読める設定になっているのですが、その転職話などをしばらく披露させていただきたいと思いますので、興味のあるかたは楽しみにしてください!

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コロナショックから1年が経ちました。昨年の3月は株価が急落し、リーマンショックと同等かそれ以上の経済的なダメージを被るものかと思ってましたが、株価はコロナ前よりも上昇。失業率も思ったより悪化しませんでした。

飲食店や観光業などの多くは苦境にさらされ続けていますが、リーマンショックのときのようにすべての産業で共倒れということにはなっていません。

具体的に、リーマンショックのときとコロナショックのときの経済指標で、どのような違いがあるか見てみましょう。

リーマンショックのときは5.5%まで跳ね上がった失業率 コロナショックでは3%台

米国のリーマンブラザーズが倒産したのが2008年9月15日。これが引き金となって金融危機が起こり、倒産ラッシュとなったのがリーマンショックです。発祥地は米国ですがその影響は世界中に飛び火し、日本も例外ではありませんでした。

当時の完全失業率の推移を見ると、リーマンショック前は4%前後で推移していましたが、リーマン・ブラザーズが倒産すると失業率は上昇に転じ、2009年7月に5.5%を記録しました。

一方でコロナショックから現在までの失業率を見ると、たしかに上昇(悪化)はしているのですが、2021年2月の失業率は2.9%と比較的低い水準をキープしています。

リーマンショック前後の完全失業率の推移(<a href="https://www.nippon-num.com/economy/unemployment-rate.html">ニッポンの数字</a>)

リーマンショック前後の完全失業率の推移(ニッポンの数字

コロナショック時の完全失業率の推移(<a href="https://www.nippon-num.com/economy/unemployment-rate.html">ニッポンの数字</a>)

コロナショック時の完全失業率の推移(ニッポンの数字

景況感は改善が続いている

日銀短観は企業に対する景気のアンケート調査です。アンケートには様々な項目がありますが、その中の「業況判断」というのは「あなたの会社の景気はいいか悪いか」との旨の質問に対して回答を集計し、「良い」と答えた企業が多ければ数値がプラス、「悪い」と答えた企業が多ければマイナスになるという極めてシンプルな調査です。

リーマンショック時の「業況判断」を見ると、ショック直後の2009年1-3月期は▲46まで落ち込み、次の4-6月期も同水準、その後改善傾向に至るもマイナスの水準が続き、プラスになるのはアベノミクスまで待たなければなりませんでした。

コロナショックでもリーマンショックと同様、「業況判断」は急落。2020年4-6月期は▲31、翌四半期も同水準でした。しかし、ここから一気に回復してきて最新の2021年1-3月期は▲8まで改善して、プラス圏が見えてきました。

リーマンショック前後の日銀短観(<a href="https://www.nippon-num.com/economy/boj-tankan.html">ニッポンの数字</a>)

リーマンショック前後の日銀短観(ニッポンの数字

コロナショック時の日銀短観(<a href="https://www.nippon-num.com/economy/boj-tankan.html">ニッポンの数字</a>)

コロナショック時の日銀短観(ニッポンの数字

マネタリーベースの動向がリーマンショックと大違い

失業率も日銀短観が示す企業の景況感もコロナショックで大きく悪化しました。しかし、リーマンショックとの比較で言えばマシだったと言えます。

リーマンショックもコロナショックも経済に与える影響は甚大でしたが、その中でコロナショックが比較的経済的ダメージが少なかったのは政府の経済対策が良かったためでしょう。

これを端的に示すのがマネタリーベースの動向です。「マネタリーベースってなんぞや」という疑問に答える前にまずはリーマンショック後とコロナショック後(つまり現在)のマネタリーベースの動向を見てみましょう。

下図は日本と米国のマネタリーベースの動向を2000年を100として推移を示したものです。米国はリーマンショックが起こった2008年にマネタリーベースを前年比で2倍にしましたが日本は微動だにしませんでした。

マネタリーベースの推移、2000年=100(<a href="https://www.nippon-num.com/economy/monetary-base.html">ニッポンの数字</a>)

マネタリーベースの推移、2000年=100(ニッポンの数字

日本はリーマンショックに加え、2011年3月に東日本大震災で大きな経済的損失を被りましたが、それでもマネタリーベースは2005年の水準に戻るのがやっと。マネタリーベースの水準が2000年比で米国の水準に追いつくには、こちらもアベノミクスを待たざるを得ませんでした。

そもそもマネタリーベースって?

マネタリーベースとは政府が発行したお金の総量です。多くの人にとってお金は労働の対価ですが、政府にとってお金は物価の調整弁です。つまり、物価が上がり過ぎたらお金を絞る、物価が停滞していたらお金を増やすということをするわけです。

こう言うと物価が上がらず下がらずのゼロ近辺が経済的に心地いい水準なのではと思いがちですがそれは間違いである可能性が高いです。物価とはモノの価格のことでモノの価格には原材料の他にこのモノの作成、営業にかかわる人の人件費、すなわち給料も含まれています。したがって物価が全く上がらないゼロということは私たちの給料も上がっていない可能性が高いわけです。

そんなこんなで経済的には物価はちょっと上がるくらい2%くらい上昇するのが良いとされています(この説明は不十分ですがわかりやすさを優先するのならこれでよいかと…)。

リーマンショックは円高ショックでもあった

日本はリーマンショック前から、物価上昇率を経済的に心地よい2%に達するようにマネタリーベースを拡大せず、ゼロ近辺で推移させてきました。

それだけでも国民に大きなダメージを与えてきたのですが、リーマンショック時に米国を含め多くの国がマネタリーベースを拡大させた中、日本は無策を貫き通した状態でした。それで何が起きたかと言うと強烈な円高です。

今はドル円が100円割ったら緊急自体と言っていい状態でしょうが、当時は90円台なら円安水準、リーマン・ショック後はほぼ80円台で推移し、70円台にも突入している時期もありました。詳しい説明は省きますが、これは米国と日本のマネタリーベースに大きな差が出たためです。

しかし、コロナショックでは日本は米国と歩調を合わせマネタリーベースを拡大させています。そのせいもあってドル円は現在110円前後で推移しています。

リーマンショックとの為替水準の差は、経済指標にも大きく寄与したはずです。円高は輸出企業にとって大きな負担で、特に海外市場をお得意様とする製造業に痛手です。その円高がコロナショックのときに起こっていないわけですから、リーマンショックのときほど経済指標が悪化しなかった、もしくは戻りが早いことに合点がいきます。

あとはワクチン…

とはいうものの、新型コロナの感染拡大阻止に現状の時短要請等をしている限り、コロナ前の経済規模に戻るのは難しいでしょう。これではお金の使い所が限られてしまい使いたくても使えないという状態になっているためです。現状の経済政策は経済を正常化させるためというものではなく、最悪の状態に陥るのを阻止するためのものです。みんなで思い切り笑い合えるのはワクチンが行き渡るのを待つしかないかな…

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