GDPで解説する統計の見方 - キーとなる名目値と実質値

今週、2021年1-3月期と2021年度のGDPが発表されました。1-3月期は再度の緊急事態宣言が発せられ再びマイナス成長。年度を通じてもマイナスになりました。マイナス成長の解説については他のメディアにおまかせして、今回のニュースレターではGDPを通じて日本の経済状況を俯瞰してみようと思います。よく聞く名目値と実質値の違いがわかると他の統計の分析にも深みがましますよ!
ニッポンの数字 2021.05.23
誰でも

2020年度のGDPが今週発表されました。コロナ禍ということもあってマイナス成長です。個人消費の一翼を担うサービス業を中心に経済活動を自粛せざるを得なかったのでマイナス成長はいたしかなかったでしょう。

GDPがどのような経済指標か皆さんピンと来るでしょうか。GDPには名目値と実質値があり、他の統計と合わせて分析することも可能です。また諸外国とも比較することで、日本の経済状況を相対的に分析することもできます。今回のニュースレターでは、名目値と実質値の違いを説明し、他の統計や諸外国の状況を交えながら日本のGDPについて考察してみようと思います。ここでのGDPの考察方法は他の統計を分析する上でも有用なので、ちょっと長いですがぜひ最後まで読んでみてください。

実質値は状況を加味した数字

名目値とは見たままの数値です。名目値については難しく考える必要はありません。若干難しいのは実質値の概念ですがこれも具体例を挙げたら簡単に理解できます。

小学校の運動会。徒競走でスタートで1人躓いてしまいました。起き上がった時点で他の子たちと差がついていましたがグングン追い上げて何と僅差の2位に食い込みました。

結果は2位ですが「実質1位はこの子だ」と皆さん思うのではないでしょうか。この例で分かる通り私たちが実質という言葉を使うとき、見たままの結果だけで判断しません。結果に至る過程を考慮し、実質的にはどうだったかという基準でジャッジを下しています。

GDPを見るときも同じです。ではGDPで言う実質値とはどういったものでしょうか。答えを先に言うとインフレ率を加味するかどうかです。インフレ率を考慮した場合が実質GDP、加味しない場合が名目GDPと言います。

インフレとはモノやサービスの質の向上とは関係なく物価が上がることです。大きさも性能も同じ車が1年前は200万円、今年は220万円したとします。差額の10%(20万円)は物価上昇分(=インフレ)なので、車の付加価値が上がったわけではありません。名目GDPではインフレも含めた価格が対象となりますが、実質GDPではインフレ分を差し引いた価格が対象となります。従って、実質GDPは名目GDPよりも低くなる傾向があります。

日本の経済成長は血と汗と涙の産物

ここで最初に提示した日本の名目GDPと実質GDPのグラフを再掲しましょう。2002 - 2007年度は名目GDPより実質GDPのほうが伸びていて、2010 - 2014年度は名目GDPと実質GDPの金額が逆転した状態が続いています。

実質GDPはインフレ分を差し引くので名目GDPよりも低くなるはず。それなのに実質GDPのほうが高くなるということは日本はマイナスのインフレ、つまりデフレだったためです。下図は日本の消費者物価指数(これが上昇しているとインフレを意味する)の推移です。2000年頃から緩やかなマイナスになっていることが見て取れますね。

「物価がマイナスだと何が悪いの?」と疑問に思う人もいると思います。物価とはモノやサービスの価格で、その価格は原材料や人件費が含まれます。人件費とは私たちの給料のことです。つまり物価が上がらないと給料が上がりません。下図は、日本のサラリーマンの平均年収の推移です。消費者物価指数の推移とよく似てますね。

デフレは物価下落を意味しますが、物価下落は人件費の削減も意味します。人件費の削減は給料の削減だけでなく、リストラも含まれます。従ってデフレの時期は失業者数も増えました。

このような状況ですと経済的な理由で身を絶つ人も出てきます。下図は経済的な理由で自殺した自殺者数の推移です。

これだけ見るとデフレの時代がいかに悲惨だったかがわかるでしょう。しかしながらこうした中でも実質GDPは成長していました。

デフレ下だとマイナスのインフレがプラスに作用するので実質GDPが上昇します。しかし、それは雇用環境や命を犠牲にしてモノ・サービス価格を下げて実現することを意味します。つまり、デフレ下の日本の実質GDPの成長は、文字通り血と汗と涙で達成したものと言えます。

「失われた20年」から「失われた30年」に

みなさん「失われた20年」という言葉を聞いたことがあると思います。これは日本の経済低迷を指す言葉としてよく使われています。アベノミクスで日本経済は復活したかのような意見も耳にしますが、それでも他の先進諸国の成長率と比較すると見劣りし、この失われた20年を取り返すのはさすがに無理でした。下図は日本と米国、韓国の名目GDPと実質GDPの推移です(2000年=100)。

アベノミクスは雇用環境を改善した点で評価されています。しかし、目立った賃金上昇(つまりインフレ率の上昇)は確認できず、逆に消費増税をして実質賃金を下げるという政策を取ってしまいました。

失われた20年とはバブルが崩壊した1990年代前半からの約20年間を意味していましたが、そろそろ「失われた30年」という言葉に書き換えないといけないかもしれません。

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