斜陽産業、マスコミ - 広告、業績、利用時間で見るマスコミのヤバさ

他社のコンプライアンスや業績を諫言することはあっても自分のことには決して触れないマスコミ。新聞社は上場もしていないので業績を知る術すらなかったりする。でもマスコミに関係する広告業界の動向などを見れば、マスコミの現況を推測することは可能だ。非上場でも朝日新聞の有価証券報告書はEDINETから入手できる。就活生にとってキラキラして見えるかもしれないが、マスコミが斜陽産業であることは間違いない。
ニッポンの数字 2021.06.06
誰でも

コロナ禍で打撃を受けた産業としてすぐに浮かぶのが飲食業や観光業、コンサートなどができなくなった、あるいは観客を大幅に縮減せざるを得なかったエンタメ業などでしょうか。いずれの産業も多くの人が身近に感じている産業であるので、その惨状も広く知られているところです。

個人消費を促すこうしたBtoCの事業の状況は多くの人にとって実感を持ってビジネスの状況を把握しやすいのですが、会社同士で取引するビジネス、つまりBtoBのビジネスは一般の人にとって業界の景況感がわかりづらいものです。また、テレビや新聞といったマスコミの業績も大きく取り上げられることがないので各社の業績がどうなっているのか把握している人は少ないでしょう。インターネットに視聴者や読者を奪われて業績が厳しいということはわかっていても、それがどの程度かはわかりづらい。

そもそもマスコミというのは他社の業績やコンプライアンスに諫言することはあっても、自分のことには何も触れません。今回のニュースレターではマスコミの現況を様々な数字から分析してみたいと思います。

広告業界の動向からマスコミの業績を推測してみる

マスコミの収入源の1つは広告費です。民放のテレビ局はタダで番組を流しているわけではなく、番組の合間に流れるCMで収益を得て、それを番組制作費に充てています。従って、広告費の動向はマスコミ、特にテレビ局の業績に直結します。下記は広告業界の年度(4月〜翌年3月)の売上高の推移です。

2020年度(2020年4月-2021年3月)は前年度比▲16.1%で、リーマンショック後の2009年度の水準を下回る結果となりました。営業を自粛しないといけない状況に追い込まれている観光業界や飲食業界が、例年通り広告を出すことはありません。コロナ禍でも業績好調な企業も多いですが、そうした企業が広告量を極端に増やすということもなかったのでこの落ち込みとなったのでしょう。

ここで取り上げた統計は経済産業省が毎月公表している「特定サービス産業動態統計調査」です。この統計はサービス業のうち19業種の動向を調査しており、その1つが広告業になります。広告業ではさらにテレビ向け、新聞向け、インターネット向けの広告別売上高も調査しています。下図はテレビと新聞の年度別の売上高の推移です。

2020年度はテレビが前年度比▲12.6%、新聞が▲17.9%で、やはりいずれの媒体も広告が減っています。そうなると当然、マスコミの業績も落ち込んでいるはずです。下図は日本テレビ、TBS、テレビ朝日、フジテレビ(フジ・メディア・HD)の売上高の推移です。いずれも2021年3月期は売上を落としています。

2021年3月期は各社とも前年比で10%近く減収しています。今期(2022年3月期)は増収を見込んでいますが、今のところコロナ前の数字を上回ることはないと予想しています。

部数減で広告収益の減少にも拍車がかかる新聞社

新聞社のほうはどうでしょうか。新聞社は上場していないのですが、朝日新聞は有価証券書を毎年提出しており、産経新聞は独自に決算概況を公表しています。この2社の売上の推移を見てみましょう。

朝日新聞の2021年3月期売上高は前年比▲16.9%、産経新聞は▲16.7%でした。もともと売上は減少傾向でしたがコロナでそれが加速したようです。新聞社の場合はテレビと違い、売上の柱は新聞の売上です。そして新聞の部数が減れば広告効果も薄れるので結果として広告収入も減ります。そのため新聞社の生命線は発行部数になります。朝日新聞の2011年3月期と2020年3月期の売上高と発行部数を比べてみましょう。

2011年3月期:売上高4,665億円、朝刊発行部数788万部
2020年3月期:売上高3,536億円、朝刊発行部数537万部
※参照:朝日新聞の有価証券報告書

9年間で売上は24%、朝刊発行部数は36%減少しました。2021年3月期の発行部数はまだ公表されていませんが、売上が3,000億円を切っているのを見ると500万部を割っていても不思議ではありません。

ただ、朝日新聞の場合は不動産業があるのでコロナが落ち着けば不動産でまたしばらく食いつなぐことが可能です。しかし、朝日新聞や読売新聞、日経新聞のように大きな不動産を持たない産経新聞と毎日新聞は、ある日突然倒産のニュースが流れてきても不思議ではないでしょう。

余談になりますが、かつては一世帯で必ず一部新聞を取っていと思います。今では新聞を取っている世帯のほうが珍しいのではないでしょうか。個人的に話になりますが私は小学生(1990年代)のときに新聞販売店の友人がいて、夏休みに新聞配達をやらせてもらったことがあります。自分の住んでいた団地に配達していたのですが、全100世帯くらいで7割程度に配達した記憶があります。しかも私が配達したのは朝日新聞の夕刊のみでした。他の新聞を取っている家庭を含めると団地全体で9割くらいは新聞を取っていたと思います。

主要メディアはインターネットに

テレビや新聞などへの広告が減ってもその分だけ広告市場が縮小したわけではありません。周知のことだと思いますが、テレビや新聞への広告が減った分はインターネット広告へ流れています。最初に挙げたテレビと新聞の広告売上の推移に、インターネット広告を追加してみましょう。

インターネット広告の売上はコロナ禍で減るどころか増加しました。広告市場全体が縮小する中で売上を伸ばしたということは、他の媒体にいつもは掲載されていた広告をネットが奪ったということでしょう。もともとこういう流れはあったのですが、コロナを契機にこうした傾向が強まったようです。

スマホとパソコンの普及と通信の高速化によりネットでニュースを見たり動画を見る機会が増えました。そしてテレビや新聞を見る時間が減っていき広告の媒体としての魅力が薄れてきたわけです。これは高齢者とそれ以外の世代で顕著です。下図は、各メディアを平日に利用する時間を世代別に示したものです。

10-30代で最も利用するメディアはインターネット。40代以上ではテレビになります。新聞の利用時間は60歳代の1日当たり22.5分が最大で、10-30歳代はほぼ読まないという調査結果になっています。

保守的に見ても今の10-30代が40-60代になる30年後には、全世代でインターネットが主力メディアになっていそうです。将来インターネットに変わる新しいメディアが登場するかもしれませんが、少なくともテレビや新聞が復権することはないでしょう。

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