10万円で何買った? - 使い所が見つからなかった人も

2020年はメディアのキャンペーンでよく見る「視聴者の中から1名に10万円プレゼント」的な企画が、全国民を対象に行われた画期的な年だった。後世に「昔国から10万円振り込まれたんだよね。お父さんにもお母さんにも妹にも」と伝えたら羨ましがられるだろう。この給付金政策、どのような効果があったのだろうか。
ニッポンの数字 2020.12.31
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今年は新型コロナのおかげで経済が落ち込みました。その落ち込みに対応するために大規模な財政出動もされました。その中でもっとも話題を呼んだのが国民全員に対する10万円給付でしょう。お金をもらってみんなハッピーなはずなのですが、なぜか10万円給付に苦言を呈する人たちがいます。

10万円給付にネガティブな人たちはこぞってそれがほとんど消費に回らなかったという論を展開しています。でもそれって本当でしょうか。皆さん10万円給付されたのをきっかけに何か買いませんでした? 下図は家電量販店コジマの月次動向の推移です。縦軸は前年比を示しています。

赤い丸の部分は5 - 7月部分です。10万円が行き渡り始めた5月は前年比+19.2%、6月は+35.9%と圧倒的な伸びを見せています。9月は前年が消費増税の駆け込み需要があったためその反動減が出ていますが、それ以外の月は現在に至るまで二桁増を続けています。

10万円の行く先はモノ!

個人消費の動向を見るのに代表的な統計「家計調査」を見ても、10万円給付以降、家電製品に消費が集中したことがわかります。下図は家計調査のうち「教養娯楽耐久財」と「家庭用耐久財」の推移です(縦軸は前年比)。「教養娯楽耐久財」はテレビやパソコン、「家庭用耐久財」には電子レンジなどの白物家電が含まれます。

こちらも赤い丸の部分は5 - 7月部分です。こちらは7月にピークをつけています。8月はさすがに勢いが落ちましたがそれでも二桁増を維持しています。

これを見ると10万円給付がモノへの消費意欲をかなり刺激したといっていいでしょう。ただ、「10万円給付しても大して消費に回らなかったじゃん」論にも一理あります。下のグラフは家計調査における消費全体の推移です(縦軸は前年比)。

例によって赤い丸の部分は5 - 7月です。6月に大きく戻しましたが、全体の消費を見ると前年比でマイナスが続いています。耐久消費財への消費は大きく伸びているにもかかわらず、です。

これはどうしてかというと全体の消費に対する耐久消費財への消費の割合が少ないためです。家電製品を毎月購入する人は少ないでしょう。ここ2〜3年を通じて購入しなかったという人もいるはずです。そんな状況ですから「10万円あげたから冷蔵庫でも買え」というのは無理な話です。冷蔵庫を買い換えようと検討していた人に対しては、給付金が購入の後押しになったでしょう。しかし、みんなが冷蔵庫や電子レンジやテレビを買い替えたいと思っていたわけではないですから、そういった人たちにとって給付金は預金のままになっている可能性が高いです。

しかし「今後も国民一律の10万円給付は意味がない」というのは早計でしょう。我々が消費するのは耐久消費財だけではありません。娯楽関連なら、旅行、コンサートのチケット、エステ、ディズニーランド、飲み会などがあります。

でも、2020年の春〜夏にかけて気軽に旅行できる状況でした? ジャニーズのコンサートやってました? 行きたくても行けない状況でしたよね。10万円給付されてもアウトドア派の人間からしたらお金の使い所がなかったわけです。そうなると全体の消費額が停滞しても仕方がないでしょう。

コロナ収束後に是非やってほしい「10万円給付」「GoToキャンペーン」「消費減税」

10万円給付がコロナ前に行われていたらどうなっていたでしょう? 10万円の使い所はたくさんあったので、外食や旅行にも消費が向かったはずです。使い所が制限された中で「10万円給付は個人消費を刺激しなかった」と結論づけるのはフェアではありません。

10万円給付の経済効果を見たいなら、コロナ収束後にやってみるのがよいでしょう。幸い(?)、10万円給付でインフレはおきませんでした。下図は東京23区の消費者物価指数の動向です。12月の総合指数は▲1.3%、コア指数▲0.9%、コアコア指数▲0.5%で、ここ数ヶ月マイナス圏で推移しています。インフレどころかデフレです。

デフレは消費価格の下落を意味しその下落には人件費削減が伴うことが多いです。つまりデフレは労働者の敵です。そのため穏やかなインフレにしないといけないのですが、手っ取り早いのば「バラまく」ことでしょう。10万円給付はバラまき政策ですが、2020年の給付金政策ではインフレが起きませんでした。ならば次回実施するとき、10万円給付だけでは不十分な可能性があります。

給付金の額を増やすのもよいのですが、コロナで傷んだ業界にお金を流す政策も必要です。12月末に中断してしまいましたが、GoToキャンペーンを同時に実施して観光関連市場への消費を促すのも手でしょう。さらに必要なのは消費減税。これは高額商品への消費を促します。新車や住宅購入を検討している人からすれば、10万円給付よりも消費減税のほうが嬉しいはずです。

2020年の給付金政策で我々が学んだのは、国民みんなに10万円をあげてもインフレにならないということでした。物価はむしろマイナス圏で推移しているので、コロナ収束後に同様の政策を実施しても、政府が目標に掲げているインフレ率2%の達成は難しいのではないでしょうか。ならば次回行うのは10万円給付+αで良いはず。この国の経済政策はやりすぎぐらいがちょうどいいかもしれません。

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