急増する自殺者数 - 根っこには雇用環境の悪化

11月の自殺者数(速報値)は前年比+11.3%と5ヶ月連続の上昇した。前月は+40.2%なので、それに比べれば落ち着いたがそれでも二桁増だ。春先は逆に急減した自殺者数だが、夏から俳優の自殺が相次ぎ状況が一変。雇用環境の悪化と相まって、自殺者数が増えやすい状況が続いている。
ニッポンの数字 2020.12.11
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11月の自殺者数(速報値)は前年比+11.3%の1,798人でした。5ヶ月連続の上昇です。10月が前年比+40.2%、女性に限ると+82.8%だったので、それに比べると落ち着いた数字に見えますが、二桁増が続いている状況はやはり異常です。

春先は自殺者が減っていた

今年は、今後の自殺対策を考える上で重要な年になりそうです。ここで今年の自殺者数を月ごとに前年比で見てみましょう。

  • 1月 ▲0.2%

  • 2月 ▲10.0%

  • 3月 ▲5.8%

  • 4月 ▲17.2%

  • 5月 ▲14.7%

  • 6月 ▲4.3%

  • 7月 +3.2%

  • 8月 +19.2%

  • 9月 +11.3%

  • 10月 +40.2%

  • 11月 +11.3%


上半期は前年までのトレンドを引き継ぎ、自殺者数は引き続き減少傾向でした。特に4月と5月は自殺者数は急減しました。理由として考えられるのはテレワークの普及です。会社に行く頻度が少なくなったため、ストレスが軽減されたのでしょう。嘘みたいな話ですが、勤務問題を起因とする自殺は毎年2,000人程度います。通勤はまさに痛勤だったわけです。冗談抜きに命懸けで通勤していた人もいたのでしょう。


ここから若年層の自殺対策のヒントを得ることができます。リモート学習を増やすことでいじめに起因する自殺を減らすことができるのではないでしょうか。アベノミクスによる雇用環境の改善にともない自殺者数は近年減少しましたが、10代の自殺者数は高止まりです。いじめが原因とするデータはないのですが少なくないはずです。

下のグラフは自殺率(人口10万人辺りの自殺者数)の推移です。全体(総数)の自殺率は減ってきているのにもかかわらず10-19歳の自殺率は増えています。全体と比較して10代の自殺率は低いですが、傾向は真逆です。

最悪のタイミングで有名俳優が相次ぎ自殺

春先は急減した自殺者数ですが、7月に入ってから女性の自殺者数が急増しています。これは有名俳優が相次いで自殺した影響が大きそうです。7月下旬に男性俳優、9月下旬に女性俳優の自殺が報じられました。7月以降の女性の自殺者数の前年比は下記のとおりです。それぞれ報道があった翌月の自殺者数が大幅に増えています。

  • 6月 +2.8%

  • 7月 +17.6%

  • 8月 +44.2%

  • 9月 +29.3%

  • 10月 +82.8%

  • 11月 +18.7%


この現象は2011年5月にも見られました。当時貧乏アイドルの愛称で人気だった上原美優さんが自殺した時期です。下の表の数値は、2011年3月〜6月までの自殺者数の前年比です。5月に数値が跳ね上がったのがわかります。

厚生労働省が翌年に発行した自殺対策白書でも自殺者数が急増した理由として上原さんの影響があったのではないかと示唆しています。

根っこには雇用環境の悪化が

10月には男性の自殺者も増えました。下記は男性の自殺者数(前年比)の推移です。

  • 6月 ▲7.3%

  • 7月 ▲3.3%

  • 8月 +9.0%

  • 9月 +3.4%

  • 10月 +21.7%

  • 11月 +7.6%

女性ほどではありませんが、こちらも俳優の自殺報道が影響しているかもしれません。ただ、これは女性にも言えることですが、雇用環境の悪化が影響してるのではないかと思います。


もともと失業率の悪化と自殺者数の増加には高い相関性があります。春先から失業率が緩やかに悪化してきましたが、ここに来て仕事が見つからなかったり、収入が減ったことで苦しんだ人たちが多くなったのかもしれません。下記は、自殺者数と失業者数の推移ですグラフの形がよく似ているのがわかります。

雇用環境は自殺者数に大きな影響を及ぼします。今年10月の失業者数は206万人(季節調整値)を超えており、まだ増えそうな勢いです。今後も自殺者数が増える可能性が高いため、雇用環境を良くする政策が必要でしょう。新型コロナの影響で雇用環境を回復させるのが難しいのなら、生活に困っている層への給付が必要です。

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